妙法山のお髪上げ(おかみあげ)

納骨堂
納骨堂

今から約九百年前の平安時代後期、蟻の熊野詣と言われたほど盛んだった熊野への参拝者たちが、※自らの頭髪を納めて来世での極楽往生を願ったのが妙法山のお髪上げの始まりです。その後、鎌倉時代中期(七百五十年程前)になって人々は親族が亡くなった時、その遺髪を妙法山に納めるようになりました。その風習が今も熊野地方の人々の間で宗旨を問わず脈々と受け継がれています。現在では火葬にしますので「のど仏」と一般に言われる遺骨を、小さな分骨箱に入れて納めに来られることが多くなりました。遺髪・遺骨は境内にある納骨堂に納められ、やがて妙法の山にかえってゆくのです。何百年もの時を超えて熊野の人々が亡き親族の遺髪を納め続けてきた妙法山。そこは極楽浄土への入り口であると同時に、今を生きる人々の暮らしを見つめながら護りつづけてくださるご先祖様たちの眠る場所なのです。人の世に栄枯盛衰はつきものです。わが家が永遠に続く保証はありません。けれども妙法にお髪上げをすれば、かならずそのご先祖様たちみんなと一緒になれるのです。その大きな安心(あんじん)が妙法山のお髪上げというしきたりを支え続けています。

※頭髪は自分の分身であり、それをあの世への入り口に納めることによって自分が死んだときに迷わずここにやって来られると信じられていた。

山 主 識