妙法山の「ひとつ鐘まいり」
「亡者の熊野詣で」と伝えられ、人が亡くなると幽魂は必ず妙法山に参り、山門の傍にある「ひとつ鐘」という釣鐘を撞いてからあの世に旅立って行くと言われています。
古くは鎌倉時代の元亨釈書という本に書かれており、人が亡くなるとだれもいないのにこの鐘がひとつゴーンと小さく鳴り響くと伝えられてきました。
そこから地方によって様々な風習が生まれました。
大阪の泉南地方や和歌山市周辺の方々は、死んでから熊野に参るのは大変だから、生きているうちにお参りして「ひとつ鐘」を撞いておこうと言って撞きにこられます。紀南の人々は妙法に亡き親族の遺髪・遺骨を納めにくる風習「おかみあげ」がありその時に一人一つずつ撞きます。
また、三重県の北牟婁郡、度会郡等では親族が亡くなって満中陰(四十九日)が終わると妙法山に参り、追善供養を済ませた上でこのひとつ鐘を撞いていかれます。
これを「ひとつ鐘まいり」と言います。
今は亡き大切な人が安らかに成仏できるようにとの願いを込めて撞かれる鐘の音が、日々静かな妙法の山にこだましております。
ひとつ鐘
表面には弘法大師の書と伝えられる丸くかたどられた南無阿弥陀佛の文字と「空海」の銘が有り、現世の安穏と先祖の菩提の為に生前一度は撞いておく釣鐘です。
鎌倉時代の元亨釈書という本にこの事が書かれていて、現在の釣鐘は江戸時代延宝6年(約330年前)に再鋳されています。